ヨルの探偵Ⅰ
丁度いい息抜きになったかな。楽しそうな朝陽や虎珀くんを横目で見ながら、答えが出ても黙ったまま考え込んでる恭に視線を移す。
何を考えてるかわからない。そう思ったけど、彼は弟のことになると些かわかりやすい。
だから、これはちょっとした揶揄いだ。
「さーて、正解者の翔くんには! 今から私とコンビニでアイスを買ってくる券を贈呈しまーす!」
「……それ、月夜が一人でアイス買いに行きたくねぇだけじゃねぇの?」
「そうとも言う」
「まぁいいけど、他なんかいる?」
翔くんがそう言うと、それぞれが欲しいものを言うからスマホにメモをして財布を持ってから外に出た。
いつの間にかもう7月になる。風が生暖かくて気持ち悪い。風に髪が攫われて、目の乾きで二度三度瞬きをする。
横にいる翔くんが何を考えてるか分からないけど、この無言が苦じゃないことだけは確かだった。だから投げかけられた言葉は不意打ちで。
「……怪我してるよな、あとキスマーク見えてる」
「あ、そこ触れてくるんだ。意外だね」
「兄貴たちほど臆病じゃねぇし」
隠すつもりなかったけど、翔くんか。
恭あたり無遠慮に聞いてきそうだけど、臆病という単語にちょっと引っかかった。
翔くんからはそう見えてるのか。臆病というか慎重というか繊細というか。
見方によっては異なる事実。
コツン、と落ちてた石を蹴り飛ばして地面に視線を落とす。秘密の境界線がぐにゃりと歪んで、言葉が詰まった。
「怪我のことは言えないかな」
「……キスマークについては?」
「私は、手っ取り早く欲しいものが手に入るなら、対価として身体を差し出す」
「────じゃあ、俺ともできんの?」