ヨルの探偵Ⅰ
夜の探偵屋
「────……くぁ」
眠気と格闘しながらも、耐えきれず欠伸を漏らすと猫の鳴き声みたいな声が出た。誰にも聞かれてないか重たい瞼を上げて確認。
周りをぐるりと見渡すも、誰とも目は合わない。誰も気づいてはいないようだったので、両手を前に伸ばし、再び欠伸をした。
窓際の席は、程よく陽が射し込んでうたた寝するには最適な場所。
クラスの女の子たちは、しょうもない噂話に花を咲かせていて眠気を誘うBGM。
反対に、男子は動きの動作が終始激しく煩い。教科書をバットに見立てて、ぐしゃぐしゃになったプリントをボール代わりに野球をしている。
それも、ごく一部だが。
これではまたいつ瞼が閉じてしまうかわからない。眠気覚ましに散歩でもしよう。
そう思い、身体を起こして立ち上がると、進行方向にいた2人のクラスメイトに話しかけられた。
「あの、月夜ちゃん。星型のゴム落としちゃったんだけど見てない?」
「……星型のゴム?」
どうやら失くしたものを探し回ってるようで、あちこち色んな人に聞いたが見つからなくて困ってるらしい。
大事な物なのか、目の前のクラスメイトはかなりへこんでいた。私は少し考える素振りをしてから、口を開く。
「……それって、カラフルな色のやつ?」
「そうそれ! なんで知ってるの?」
微かに記憶にあった水色やピンクのパステルカラーの星型のゴムが頭に浮かんだが、今の反応からして彼女の物だったようだ。
「いつも手首に付けてるじゃん? テニス部の部室に落ちてると思うよ」
「え、ほんと!? なんでわかるの!?」
「2人ともテニス部でしょ? 今日は朝に部室の片付けしてたし、その時に落としたのかなと思って」
「あ、そうだ! 朝に部室行ったの忘れてた! すごい、ありがとう月夜ちゃん!」
嬉しそうにパタパタと走り去ったクラスメイトの後ろ姿を見ながら小さく「どういたしまして」と返し、私は眠い目を擦った。