ヨルの探偵Ⅰ


〈 橘 優介side 〉


 日に日に怪我をして隠し事をする俺らに、月夜ちゃんの堪忍袋の緒が切れたと気づいたのは、定期考査の結果が張り出された日だった。


「わお、翔くん1位で満点! 有言実行だねえ」

「なんで月夜は3位なんだよ」

「1位取ったら目立つし、平均点うろちょろしてた私が急におかしいじゃん」

「まぁいいや。で、どうすんの?」


 2人にしか分からない会話をしてる翔と月夜ちゃんに、何故か嫌な予感がする。

 俺と莉桜は前回と同じ順位で変わらず。案の定、恭と蒼依は赤点だったわけだが、ここ数日のことを考えれば仕方ないとも思う。

 月夜ちゃんには黙っていて悪いが、ここ数日人探しをしていた。それで怪我なんかも増え、明らかに何か言いたげな彼女だったが、敢えて口を噤んだ。

 でも、それが間違いだったらしい。


「よし、1位で満点の翔くんには今回の針生失踪事件について教えてあげよう!」

「「「……は?」」」

「私についてこーい!」


 まてまて、まってくれ。

 素っ頓狂な声が出た俺。遅れて登場した蒼依と莉桜の2人も月夜ちゃんの言葉を聞いて、バックを床に落とした。

 なんで彼女がそれを知ってるいるんだ、と頭が混乱して言葉が出てこない。莉桜も口をぽかんと開いている。

 そんな状況で、真っ先に動いたのは蒼依だった。


「……え? なんで月夜ちゃん知ってんの?」

「やだよーだ。私、定期考査の勉強してた方がいいんじゃないって何度も忠告したのに! 赤点の蒼依くんになんて教えないもーん!」

「どんまい」


 拗ねたように言う月夜ちゃんが翔の手を掴んで帰ろうとするから、俺も慌てて後を追う。

 今回は翔も味方ではない。引き止めて話を聞こうとするも、耳を塞ぐ彼女に「イー!」と威嚇され、逃げられた。

 まずい。まずい気がする。

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