ヨルの探偵Ⅰ
でも、じゃあなんでクラブのオーナーは消えたと思ったんだ? それにドイツってなんで翔はわかった?
そんな疑問に答えるように、翔が言った。
「ドイツ留学……そういう系の本が収集前のゴミ捨て場にまとめられて置いてあった」
「なるほどね、気づかなかったよ」
「翔くんは気づいたけど、俺らに黙ってたわけね〜」
「普通見落とさねぇだろ、焦りすぎなんだよ」
正論だ。何も言い返せない。
翔の言葉に反論なんてある訳もなく、楽しそうにゆらゆら笑う月夜ちゃんの鼻歌だけが聞こえる。俺たちの様子を見て、すごい楽しそうだ。
あとは、もっと翔以上にこの真相を知っているだろう彼女の言葉を待つだけ。
スプーンでかき氷を掬って、口元に運んだ彼女はようやく全てについて話し始めた。
「あるところに、したくもない結婚が迫ってきた女性がいました。結婚相手はプライドの高い短気で女を見下す見栄っ張りな男。どうしても結婚したくなかった彼女は叔母のいるところに逃げることにしました。
────そう、ドイツに逃げることにしました」
「え、それって……」
「ただ、準備に手間取ります。誰かの手が必要でした。そこで最近知り合った男の子に、一緒に連れてってと言います」
最初はなんの話しを始めたのかと聞いていたが、話の全貌が見えた気がした。