ヨルの探偵Ⅰ
針生は知人が多かった。懐も広く、誰かの相談によく乗っていた。
溶けていく氷が、赤のシロップと混じる。それを月夜ちゃんは眺めながら、俺たちが辻褄を合わせてる様子を窺って、また口を開いた。
「2人はドイツに行く準備をひっそり進め、あとは日にちを決めるだけ。しかし、女性は結婚相手だった男に勘づかれてしまいました。このままでは逃げれないと悟った彼女は、予定を前倒しして男の子と2人、急いでドイツに向かいましたとさ」
「終わり、じゃないよね」
「もちろん。プライドずったずたの男が逃げた女性を見つけようと必死になります」
蒼依もこの出来事の全貌が見えたのか、脱力して背もたれに凭れかかった。
針生がどういうつもりで行動したのかはわからない。可哀想な彼女に同情したのか、ついでのつもりだったのか、関係性が何かあったのか。
どちらにせよ、2人はもう居ない。
残ったのは、事情を知らない俺らだけ。
「まさかドイツにいるなんて思わない男は必死に探します。見つかるわけもないのに。そこで、夜のお店に詳しい弟にも手伝わせます」
「…………それ、クラブのオーナー?」
「莉桜くん大正解。お兄ちゃんに逆らえない弟はどうにかして彼女を見つけないとと思い、bsの君らなら見つけられるんじゃないかと、夜の探偵屋というワードで釣ったわけ。おーしまいっ」
「で、めでたく俺らは騙されたってわけねぇ」
もうこの際、なんで月夜ちゃんがこんなに知っているのかなんてどうでもいい。
あまりにもしょうもない事情に拍子抜け。俺らが必死に探してるのを、月夜ちゃんは哀れだと思っていたはずだ。