ヨルの探偵Ⅰ
◇
喫茶店を出てすぐ、太陽の暑さに溶けそうになり、近くの路地裏に避難する。
「地球温暖化め……」
かき氷を食べて身体を冷やしたはずなのに、外に出て数分で日差しの強さに負けた。今年も夏は引き篭る予感がする。
駅前から離れようと、路地裏を野良猫のようにふらふらと歩いた。
この辺の地理は暗記済み。迷子にはならない。目的地も決めずに歩き、さっきの疑心暗鬼に揺れた彼等の様子を脳裏に浮かべた。
優介くん、いい顔してたなぁ。
ふ、と口から笑みが溢れ落ちそうになった時、スマホのバイブがポケットから伝わる。──マレくんだ。
《ヤア、ヨル。暑そうだネ》
「かき氷食べても暑いままだよ、夏なんてきらーい」
《フフ、夏がキライな理由は暑いからじゃないデショ》
「嫌なこと思い出させるね、マレくん。それより首尾は上々だよ、お疲れさま」
《今回のはラクだったネ〜》
いつもどこからともなく監視しているマレくんに呆れながら、今回の依頼のお代について思い出す。
プライド、見栄、地位、名誉。
ちっぽけな男を形成していたものをお代として頂いた。つまり、私に依頼したが最後、全てなくしてしまったわけだ。