ヨルの探偵Ⅰ



 喫茶店を出てすぐ、太陽の暑さに溶けそうになり、近くの路地裏に避難する。


「地球温暖化め……」


 かき氷を食べて身体を冷やしたはずなのに、外に出て数分で日差しの強さに負けた。今年も夏は引き篭る予感がする。

 駅前から離れようと、路地裏を野良猫のようにふらふらと歩いた。

 この辺の地理は暗記済み。迷子にはならない。目的地も決めずに歩き、さっきの疑心暗鬼に揺れた彼等の様子を脳裏に浮かべた。

 優介くん、いい顔してたなぁ。

 ふ、と口から笑みが溢れ落ちそうになった時、スマホのバイブがポケットから伝わる。──マレくんだ。


《ヤア、ヨル。暑そうだネ》

「かき氷食べても暑いままだよ、夏なんてきらーい」

《フフ、夏がキライな理由は暑いからじゃないデショ》

「嫌なこと思い出させるね、マレくん。それより首尾は上々だよ、お疲れさま」

《今回のはラクだったネ〜》


 いつもどこからともなく監視しているマレくんに呆れながら、今回の依頼のお代について思い出す。

 プライド、見栄、地位、名誉。

 ちっぽけな男を形成していたものをお代として頂いた。つまり、私に依頼したが最後、全てなくしてしまったわけだ。

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