ヨルの探偵Ⅰ
くすくすと口から漏れた笑みが化け猫のようで、いつしか自分も呑み込まれてしまいそうだと怯える。
最近ほんとに不調だな、自分。
そんなことを勘づかれないよう、電話口のマレくんに1つお願いごとをする。
「マレくん、欲しいものあるんだ」
《ン? なぁに?》
「会った時に言うよ、じゃあ」
バイバイ、と通話を切ろうとしたとき、楽しそうにゆらゆら笑うマレくんが面白い事を見つけたときの笑い方だと気づいた。
癇に障るな、と口を開こうとしたが、少しの雑音後、背後。
《……アハ、ヨル。────うしろ》
ブツ。ツーツーツー……。
振り向かなくても、誰がいるのかわかる気がする。
ゆっくり身体ごと捻り、背後にいるだろう人物を視界に捉える。──気怠げで眠そうな王様。獰猛で牙のある百獣の王。
「……恭」
「なにしてんだ、よる。危ねぇだろ」
さらり、恭のミディアムの髪が目元で揺れている。
私を捉えて離さない眼に、焼かれて消えてしまいそうだ。呼吸さえ息苦しかった。
不意打ちは嫌だな、と何とか取り繕って笑顔を見せるもヘッタクソだ。こんなのは予定外だ。
そんなに会話は聞かれていない。変な様子もない。別に普通に接して話せばいいだけなのに、言葉が詰まった。
「……恭、髪ハーフアップにしてて可愛いね」
「そうか」
「うん、ちょっとエロい」
「そうか」
なにこの会話。