ヨルの探偵Ⅰ
恭も表情を一切崩さないから余計にカオス。私が一人内心あたふたしてるだけだ。
だって、恭は本当に顔がいい。造形美が完璧だ。どっかの王族なんじゃないかと本気で疑いたくなるくらいには全て整っている。
だから、距離が縮まって驚かないわけがないのだ。
「ちょっと、赤点の恭くん。近いよ」
「もう治ってきたけど、怪我。それにキスマ。あとキツいタバコとムスクの匂い」
「今更聞いてくるんだね」
「聞いてもなんも言わねえだろ」
「今聞いてもなにも言わないよ、残念」
唇が触れ合うまで残り20センチもない。
こんな状態で平然と会話してるのは変だ。でも逃げられる気がしない。
いつの間にか手首を恭に拘束されていて、本格的に焦った。もう背中が壁に張り付いてる。後退りは無意味だ。
そもそも非力で鈍足の私が体力勝負に出ても無駄でしかない。とにかく口を回せ。
「不貞腐れた顔しても、教えないよ。何も」
「それなら俺は暴くまでだ」
「暴かれるのは恭たちの方かもね」
「お互い秘密が多いな」
そうだね、秘密だらけだ。
恭たち個人の事情もあって、に関係する問題も手詰まり、まだ何も解決してないもんね。
もちろん、私の問題も。
視線が噛み合ったまま、本気でおうちに帰りたくなってきたと一歩足を踏み出した。距離が縮まって、吐息が近くなる。
「あと、怪我なら恭たちもしてるよね。手赤い」
「……」
「だから、見逃すから。私のことも、……ッ、イタ」
私のことも見逃して、と言葉にしようとした刹那、思い切り首元に噛み付かれた。