ヨルの探偵Ⅰ
首は人間の急所の一つだ。思わず身体を捩るも、余計に歯が食い込んで痛い。手首は掴まれ、私の脚の間に片脚も入れられ、身動きが取れない。
恭の柔らかい髪が首筋にあたって、痛みで生理的に唇を噛んだ。
いきなり噛み付いてきたかと思えば、抵抗すればじわじわと痛くしてくるし、力を抜くと甘噛みのように噛んでくる。
ひとまず、抵抗せずじっと耐えていると、満足したのか恭が顔を上げた。
「痛い。恭のばか。きらい」
「むかついたから噛んだ」
「いま怒ってるのは私だよ、謝ってよね」
「んじゃ俺のことも噛んでいい」
……なんで? え? どうして?
そういう文化の人? 怒ったら噛むの?
話が噛み合ってないような気がして力が抜ける。どっと疲れた。よく、こんなぽやぽや天然の恭がトップになれたよね。ある意味すごい。
それに、こんな路地裏でこんなことしてたら真昼間から変態扱いされそうだ。
「なんか恭と話してると気抜ける。眠いし」
「そうか」
「うん、だから帰ってお昼寝でもしよう」
「わかった」
さっきまでとは反対に、私が恭の手首を引っ張る。
体温を共有しながら、ひっそり暗い路地裏を歩いて熱が今度こそ溶けた。
見られていると、わかっていたはずなのに。