ヨルの探偵Ⅰ
パタンと玄関のドアが閉まる音がして、リビングにいた俺らは彼女の帰宅に気付いた。
玄関まで迎えに行こうと立ち上がって、静かな様子に微かな違和感を感じながらも、ラフに「おかえり〜」と廊下を歩きながら言う。
返答はない。
「月夜ちゃん?」
「……」
玄関先で固まったまま動かない月夜ちゃんに、焦燥感に駆られる。顔は伏せられたままで、表情がわからない。
でも、明らかにおかしい。
俺の存在に気付いていないのか、彼女は靴も脱がないで直立不動だ。俺は咄嗟に彼女の腕を掴もうとした。
「はっ、ぁ、……ッ」
「……どうした?」
「……ッ」
その刹那、小さく震えて、ヒュッと異様な呼吸音がした。
まずいと気付いた時には手遅れで、月夜ちゃんの身体が傾いて倒れかける。慌てて抱き留めながら、「優介!」とリビングに向かって叫んだ。
夏なのに、身体が冷たい。よく見れば、顔も真っ青だ。荒い呼吸で震えが止まらない。
焦った様子で何事かと顔を出した優介に、ブランケットを頼む。翔も莉桜も、この緊急事態に顔色を変えて近寄ってきた。
初めて見る彼女の弱々しい姿に、唖然としながらも莉桜が靴を脱がせる。翔も近付いてきて、背中を撫でた。
「移動すっから、持ち上げるな?」
「……」
反応はねぇけど、とにかく抱き抱えて部屋に運ぶ。
寝かせるならベッドがいいだろと言った翔に頷き、優介が持ってきたブランケットで彼女を包んでから、ベッドに座らせた。
身体は俺に預けたままで、莉桜がペットボトルの水を持ってきて机に置く。