ヨルの探偵Ⅰ


 倒れる前の記憶に、恭はいなかった。恭には出掛けることを前もって伝えていたのに、蒼依くんたちに知らせなかった?

 どういうことだろうと頭を捻っていると、繋がれてないもう片方の手が私の頭を撫でる。


「朝陽たちには何も話してない」

「そっか、ありがと。いなかったのは不幸中の幸いかな」

「……聞いてもいいなら、聞くけど」


 「どうする?」と言葉が降ってくる。選択肢も決定権もどうやら私にあるらしい。

 あの時、喉元までせり上がってきた言葉を飲み込みながら、平常心を保って声を出す。繋がれた手のお陰で声は震えなかった。


「後悔してることあって。思い出す度に、自分のこと殺したくなっちゃうんだ」

「……後悔」

「わかってる。後悔のない人生なんてないのに、積み上がった自分のどうしようもない過去が降り掛かってくる」

「月夜は、忘れたいの? 後悔してる過去」


 どうだろうね。

 後悔してる過去なんていくつもありすぎて、全部まっさらにした方が早いと思っちゃうよ。

 夏は、夜の海の冷たさに。冬は、暖炉の火の熱に。

 きゅっと唇を噛み締めて、優しさに溺れないように自分に釘を刺した。屈しない、絶対に。この後悔は、私が背負う。


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