ヨルの探偵Ⅰ
彼の肩口から顔を上げた。
私の表情をみて、翔くんが何を読み取ったのかはわからない。形容できない妙な顔つきでこっちを凝視して、至って冷静な声で言った。
「俺にもあるよ、後悔。クソ重てぇし、投げ捨ててやりてぇけど、それ含めて今の自分だから忘れなくてよかったって時々思う」
「……時々かぁ」
「そりゃ、へこむ時だってあんだろ」
慰めてるつもりなのか、声が優しい。
いや、翔くんはいつも優しいけど。打算も計算もない本心からの言葉をくれる。
それに、もう落ち込んでない。へこんでもない。ずっと繋がれていた手のおかげで、気分が最下層まで行かずに済んだ。
その手は今でも、私が痛がらない程度に強く握られている。
「もう一眠りしよっかなぁ」
「……ん」
「一緒に寝ようよ」
「わかった」
隣で寝っ転がった翔くんの腕枕で、またウトウトと眠気が誘われる。
ふと、意識が完全に落ちる瞬間。
さらり、髪を撫でられる。
「……お前とも、会えたしな」
そんな悪くねぇよ、俺の人生。
そういった声は、夢の中で微かに聞こえた。