ヨルの探偵Ⅰ


 ドアを開けた瞬間から笑われ、私の気苦労も知らずに「アップルパイはー?」と糖分を求めるマレくんは性悪だ。仏のような優しさを持つ紗夜の肩に顔を埋める。


「優しいのは紗夜だけだよ。あの2人は私の不運とアップルパイしか求めてない薄情者なんだよ⋯⋯! どう思う? 慰めもせずに私の買ってきたアップルパイを食べて、私の不幸を笑うあの2人っっ!!」

「あぁ、落ち着いて下さいヨル。あれは生粋の馬鹿たちなので気にしちゃ駄目です」


 紗夜が馬鹿馬鹿言ってくれるから少し気が晴れた気がするけど、止まない笑い声が癪に障る。いつまで人の不幸で笑ってんだ!

 しかも、馬鹿と言われようと一ミリも気にしてないあの2人に余計にむかつく。

 蓄積された怒りのまま、ぐでっと項垂れ、私はぼんやりと呟いた。


「もう今日は疲れた……。これからマレくんのお誘いには乗ってやるもんか……」

「エッ? なにヨルってば、もしや不運なのはボクのせいって言ってル? アハハ」

「……元から。うまれつき」


 うぐぐ……。

 無言でぺちぺちと紗夜を叩いて、ニヤニヤして私が買ってきたアップルパイを食す性悪男2人に向かって指を指す。

 そうすれば「こら! やめなさいってば!」と紗夜が咎めてくれるも、反省の様子はない。

 くそ……! この男ども見た目だけは大人と大差ないのに中身は意地悪なやんちゃ坊主小学四年生のレベル!

 人の不幸は蜜の味だけれども! もし私が同じ状況でも笑うけど……!

 笑われるのは腹立つ……っ!!

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