ヨルの探偵Ⅰ


 今は、丁度3限の休憩時間。休日ならお昼寝してるような時間帯だ。4限はサボろうと決め、ふらふらとあてもなく廊下を彷徨う。

 廊下には暇を持て余した他のクラスの男女が談笑していて、次の授業のこと、部活のこと、他愛もない会話をして友情を築いている。

 雑音だ。でも、一見意味もない会話でもさっきのように役立つこともあるから、通りすがりに盗むようにして音を拾っていく。

 人は、焦っていると鈍くなるものだ。自分自身の行動についての記憶が曖昧で、簡単にわかることですら難問のように時間が掛かる。

 さっきのもそうだ。

 クラスメイトの彼女にとって、そのなくしものは意味のある大事なものだった。だから肌身離さず、ずっと持っていた。


「小さい頃に死んだお母さんからのプレゼントかぁ」


 それは大事なはずだよねぇ、と独り言を漏らす。

 小さな子供が使うような古くおもちゃのような髪ゴムでも、彼女にとって意味のあるものだ。

 なんでそこまで知ってるんだって? それこそ何ヶ月も同じクラスで高校生活を共にしていれば、仲良くなくとも会話は耳に入り、表情や言動1つから様々な情報が読み取れる。

 これはもう職業病みたいなもので。ある意味、特技趣味とも言える。

 父子家庭で苗字が学期の途中に変わった。どうやら再婚らしい。まだ新しい家族に馴染めていなく部活に励んでいる。離婚なら母方についていけばいい。ついていけないのは、もう居ないから。

 ここまではただの予想。見聞きして知った情報からある程度想像はできる。

 じゃあ何故、小さい頃に貰ったプレゼントだとわかったか?

 それこそ明快。あの星型の髪ゴムはもう生産されていない。ある美容メーカーのサンプルに付いていた物だからだ。

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