ヨルの探偵Ⅰ


 仙波 蒼依がアイドルのような甘い顔だとしたら、マレくんはドール人形のような可愛らしい顔立ち。

 そして実は、マレくんはただのあだ名で、詳細はよく知らないけど彼はイタリア人。ハニートーストのような髪色は地毛で、澄んだエメラルドの瞳も元々なのだ。

 本人曰く、イタリア人みんなこんな感じらしいが絶対、全くもって、嘘であると思っている。

 こんな可愛いイタリア人が沢山いてたまるか。

 
「ヨル撫ですぎダヨー……。ヨルだって綺麗な髪してるジャン」

「そうですよ! 私と夜白は真っ黒でいかにも日本人のような見た目ですけど、ヨルこそ浮世離れした容姿ではないですか!」

「んえー。別にそんなことないでしょ」


 お世辞でないとわかる言葉に、間延びした口調で私はそんな事ないと首を振る。

 染めてるブルーグレーの髪色は綺麗だけど、気を抜くとすぐパサパサしちゃうし、今隠れてる瞳はマレくんみたいに綺麗じゃなくて異質だ。

 必死に弁解してくれる紗夜に力ない口調で「励ましありがと」と返して目を閉じる。納得と理解は別物だから、理解はできても納得はできない。


「そんなへこまないデヨ」

「へこんでない。すっごい元気だよ」


 誰もが嘘だとわかる言葉をマレくんに返す。

 主観が入るとわからない。コンタクトで隠れたこの濁った目だけが鮮明に思い出されて気分が落ちた。

 でも察してか、マレくんがポンポンと背中を撫でてくれてるから、数分後にはいくらか落ち着く。

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