ヨルの探偵Ⅰ
その後、泣き止んだ虎珀くんは、バスが病院の最寄りに着くまでにこれまでの事を語った。
親の事情、父親の病死、母親の異変。生活の変化。
記憶を探るように、でも確かに、吹っ切れた様子で語った。
「オレの親、駆け落ちだったんだ。小さなアパートで3人で住んでた。生活は厳しかったみたいだけど、母さんも父さんも、近くに蒼兄もいて、楽しかった」
「あれは、小学2年の頃かな、父さんが病気で死んでから母さんが変わった。勉強勉強ばっかり言うようになった」
「でも、母さんが働きに出て忙しいのも、俺の将来を考えて言ってるのもわかったから、最初は勉強頑張ってたんだ。けど、いつからか世間体とか周囲の目とか気にして、オレのこと見なくなってた」
「丁度、蒼兄も居なくなって話せる相手がいなくて、ストレスだけが溜まってった。それで中学なって、朝陽と会って仲良くなってから、勉強が疎かになってった」
「元々、運動の方が好きなのもあってさ、反抗期もあって勉強やめたんだ。そしたら、〝アンタのせいでご近所から見下される〟とか言われちゃってさ」
「オレもムカついて、その場の勢いもあって、家出みたいに月姉と朝陽のいる家に転がり込んで、何も考えないように逃げてた」
たった数分で終わるような話だ。
でも、小学生の虎珀くんには辛いことも多々あったはずだ。小さな積み重ねが蓄積されて、逃げ出したくなるほどには。
蒼依くんも、まだ小さかった虎珀くんを思い返すように目を伏せていた。
夫の死、シングルマザーとしての立場、息子の将来、手を差し伸べて話を聞いてくれる人がいない環境では、さぞかし大変だったんだろうなとも思う。
だからといって、虎珀くんへの言動が許されるわけではない。