ヨルの探偵Ⅰ


 しかし、私は虎珀くんの母親に会いに行った時、揺らがない愛情がある事を感じた。

 あの人も盲目になってたわけじゃない。自らが口にしてしまった取り消せない言葉を酷く後悔していた。

 だから、頭を下げて「よろしくお願いします」と心配そうな声で言われた時、大丈夫だと思った。

 何かきっかけさえあれば、元に戻ると。


「病院の最寄り着いたね、バス降りよっか」

「……うん」

「心配せずとも、ちゃんと話せばわかるよ」

「うん。オレ、頑張るよ」


 強い意志のある目だった。

 迷いなんてない虎珀くんの瞳に、眩しくて私のような人間には毒だな、なんて思いながら翔くんのエスコートでバスを降りる。

 相も変わらず妙なとこで紳士だよね、翔くん。

 虎珀くんの隣を歩く蒼依くんが一瞬、後ろを歩く私と翔くんを振り返ったけど、何も言ってくることはなかった。

 そうこうしてるうちに、病院に到着。


「うわあ、夜の病院まじかあ〜。怖いよ〜〜」

「同感〜。俺も、こういうのダメなのよ〜。置いてったら殴る〜」

「恐怖で何でバイオレンスになんだよ」

「蒼兄も月姉もまだ受付だろ? 怖くねえって」


 いや、割とほんとにごめんよ虎珀くん。

 緊張してるだろうに、年上が夜の病院にびびって小声で騒いでるなんて、空気ぶち壊しもいいとこだよね。ごめんよ、頑張って黙るね。

< 347 / 538 >

この作品をシェア

pagetop