ヨルの探偵Ⅰ
しかし、私は虎珀くんの母親に会いに行った時、揺らがない愛情がある事を感じた。
あの人も盲目になってたわけじゃない。自らが口にしてしまった取り消せない言葉を酷く後悔していた。
だから、頭を下げて「よろしくお願いします」と心配そうな声で言われた時、大丈夫だと思った。
何かきっかけさえあれば、元に戻ると。
「病院の最寄り着いたね、バス降りよっか」
「……うん」
「心配せずとも、ちゃんと話せばわかるよ」
「うん。オレ、頑張るよ」
強い意志のある目だった。
迷いなんてない虎珀くんの瞳に、眩しくて私のような人間には毒だな、なんて思いながら翔くんのエスコートでバスを降りる。
相も変わらず妙なとこで紳士だよね、翔くん。
虎珀くんの隣を歩く蒼依くんが一瞬、後ろを歩く私と翔くんを振り返ったけど、何も言ってくることはなかった。
そうこうしてるうちに、病院に到着。
「うわあ、夜の病院まじかあ〜。怖いよ〜〜」
「同感〜。俺も、こういうのダメなのよ〜。置いてったら殴る〜」
「恐怖で何でバイオレンスになんだよ」
「蒼兄も月姉もまだ受付だろ? 怖くねえって」
いや、割とほんとにごめんよ虎珀くん。
緊張してるだろうに、年上が夜の病院にびびって小声で騒いでるなんて、空気ぶち壊しもいいとこだよね。ごめんよ、頑張って黙るね。