ヨルの探偵Ⅰ
どれだけ口を押さえても、何かとリアクションがうるさい私と蒼依くん。
空気読まなすぎの私たちに、心の広い虎珀くんは怒ることもなく「気分紛らわしてくれてんの?」と笑うから天使だ。
ぴえ、ぴえ、と怯えながらも私たちは病室に着いた。虎珀くんが立ち止まる。
「……ふー」
「……」
「よし、いってきます……!」
「頑張れ、いってらっしゃい」
実は、事故は大したことはなく、少し足を掠った程度だと受付で看護師さんに聞いた。しかし念の為1日様子見で入院だと。
それを聞いて、事態に安堵した虎珀くんが言ったのだ。
親子だけで話をさせて、と。
意を決したのか、病室のドアを開けて入っていった虎珀くんの背中を見送る。
バスの中で見た小さな背中では、もうなかった。
「俺はさ〜、虎珀がずっと小さな子どもだって思ってあの頃と重ねてたけど、成長してたんだな〜」
「ふふ、成長期だもん。すぐ追い越されるよ」
「……そう、かもしれねぇな〜」
空気を察した翔くんがこの場を離れたと同時、蒼依くんが憂いを帯びた目で過去を懐かしむ。
わかるよ、言いたいこと。
私たちが思うより、ずっと考えてる。虎珀くん然り、朝陽も翔くんも。歳上って立場に胡座かいてるのは私たちかもしれない。
病室の中から微かに話し声が聞こえる。それはとても穏やかな声だった。