ヨルの探偵Ⅰ
それから幾許もなく、会話を終えてすっきりした顔で虎珀くんはドアの隙間から顔を覗かせた。
「母さんが少し話せるかって」
「ん、もちろん」
夜も遅い。そこまで長話をするわけでもないだろうから、蒼依くんと頷いて病室の中に入った。
ベッドの上では、腕に包帯を巻き上半身を起こしてる虎珀くんのお母さんがいた。前会った時より僅かに痩せてるけど、顔に影はない。
虎珀くんの表情からしても、もうお互い打ち解けたんだろうな。
「怪我が大事に至らなくてよかったです」
「怪我は大したことないです。夜分にご迷惑をおかけしました。本当にありがとうございます」
「いえ。虎珀くんとも仲直りしたみたいで安心しました」
当たり障りのない言葉を投げかけると、座ったまま深々と頭を下げられた。
そこまでのことは私はしてないから、頭を上げてほしい。「怪我に障るといけないので……」と言いつつ、横にいた蒼依くんに目配せをする。
すると、顔を上げた虎珀くんのお母さんは、蒼依くんを視界に入れて驚いたように目を丸くした。
この大きな目とか驚いた反応とか、とっても2人が親子だと感じさせられる。
「あら、蒼依くん……?」
「お久しぶりです、花江さん。縁あって、数ヶ月前に虎珀と再会したんです。ご挨拶が遅れてすみません」
「そんな、挨拶なんて……。蒼依くんと虎珀がまた会えて良かったわ」
虎珀くんのお母さん、花江さんを名前で呼んだ蒼依くん。
目を細めて微笑んだ彼女に、やっぱり既視感を覚えながら、テーブルに置かれていたラッピングされた袋からある程度予想ができた。
会えずとも、息子の誕生日を忘れる訳もなく、プレゼントを買いに行って事故にあったんだろうな。