ヨルの探偵Ⅰ
実際会話が進んでいく中で、虎珀くんの誕生日プレゼントを行く帰りにと言っていて、虎珀くんは微妙な顔をしていた。
嬉しい感情もあるけど、それで事故に遭ってしまったんだから素直に喜べない複雑な気分なんだろう。
その虎珀くんの心情を、母親が見逃すわけもなく。
「虎珀のせいじゃないのよ。プレゼント、喜んでくれないと困るわ」
と、終始微笑んでいた。
和やかな空気に安心しながら、待たせてる翔くんを言い訳に場を切り上げるようと「私はお暇しますね」と声をかける。
「俺は心配だから残るわ。月夜ちゃん、翔と気をつけて帰ってね。……今日はありがとな」
「どういたしまして。じゃあ、後はよろしく」
「あ、月姉! 俺からも今日はありがとう。蒼兄も。翔くんにも、後でお礼言うから」
「ふふ、どういたしましてー。虎珀くん、改めて誕生日おめでとう」
「……おう! ありがとう!」
色々あったけど、笑顔で締めくくれる誕生日でよかった。
病室を出ようとドアを開けた際、「水無瀬さん」と呼び止められて、振り向く。
そこには、真っ直ぐ私を捉えて背筋を伸ばしている虎珀くんのお母さん、花江さんがいた。
「水無瀬さん。あの時も今日も、本当にありがとうございました」
「お礼は有難く受け取ります。お大事にしてください。……では」
姿が見えなくなる寸前まで、彼女は私に深く頭を下げていた。
それを視界にいれることなく、──パタン、とドアが閉まった。