ヨルの探偵Ⅰ
ベッドサイドに腰を下ろして足を組み、シャワー室の様子を窺う。
まだ水が流れる音がするけど、男の人は早いから急がないとね。わかってるはずのマレくんが無意味に通話を引き伸ばしそうだし。
依頼の詳細を確認。厄介な案件に、頭を抱えた。
「警察に言えない消えた子どもの依頼って……」
《ヤバイ匂いプンプンするネ》
「監視カメラと声で依頼人が女ってことはわかったけど、色々隠したいって感じか」
《厄介ダヨ。あと面倒、タブン》
わかってる。
消えた妻を夫が探すため探偵に依頼して、見つけ出した妻を殺害。実はDV持ちで妻は逃げ出していただけでした。とかの類はあるあるだけど怖いからね。
特に警察にも言えない。こんな都市伝説のような私たちを頼ってくるくらいだ。
似た匂いしかしない。
「ま、一旦は依頼主の情報集めでしょ。お代も決めてないからね」
《オッケー。監視カメラで、辿って見るッテー》
「ん、頼んだよ〜。じゃ、切るね」
《ストップ、ヨル〜。もう1個、話があるヨ》
シャワーの音がしなくなった。切らないとまずい。
通話口の呑気なマレくんを急かそうとするも、聞こえたきた言葉に──息が止まる。
その言葉を、もう一度繰り返して欲しかった。
聞こえなかったわけじゃない。ただ、驚いて混乱した思考のせいで、頭が回らなかった。
「は? どういうこと、マレくん……」
《続きは、また今度ネ。バイバァイ》
「ちょっ、まって──」
「────月夜、大丈夫か?」