ヨルの探偵Ⅰ


 要約すると、暇。とてつもなく暇。


「暇で干枯らびちゃうよ〜〜」

「姉ちゃん、いつも夏は家から出たくないって言ってたじゃん」

「出るなと言われると出たくなるよね」


 反骨精神とやらだよ。

 私がうだうだしてる間に、朝陽特製オムレツがテーブルに運ばれた。手を合わせていただきますしてから口に頬張る。美味し。

 パンをちぎって食べていると、同じようにパンをちぎって口に入れた朝陽が少し不思議そうに口を開いた。


「いつもなら言うこと聞かず外出るじゃん。姉ちゃんは」

「ん〜、まあそうだねぇ」


 朝陽に空返事をしながら、まだベランダにいる鳥を眺める。

 彼らの言うことを聞く義理はないのだけど、困った状況になってる事は確からしい。

 数日前から、ここらの治安がいっそう悪くなった。警察のサイレンやらバイクの走り回る音が煩いし、SNSでも噂されてる。

 ちなみに、元凶はご存知の通り〝ファング〟。

 bsと敵対してるところだ。そこがあちこちで暴れ回って、大変らしい。


「まぁ、様子見かな」

「何が?」

「いや、なーにも」

「ふぅん。……ま、1人分より2人分のご飯作るほうが楽だからいいけどね」


 な、な、なに、この可愛い生き物……!

 ツンデレにも程があるけど、今のはズッキュンだった。可愛いがすぎた。私の弟、可愛い。

 私の表情に気付いて、素っ気なく「ニヤニヤやめて、うざい」と悪態つく朝陽だけど、耳がほんのり赤く染っていて、余計に口角が上がる。

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