ヨルの探偵Ⅰ


 それなら、いい子ちゃんでいる必要はないね。

 ある人物に一報入れてから部屋に戻る。夜が満ちるまで時間はあるから、パソコンを起動させて情報を拾うことにした。探るのは、まずファング。

 基本的な情報……。メンバーの年齢、住所、生年月日、ざっとした構成、約1年前とここ最近の動きについて。


「やっぱ、事件のキーは兵頭クン。君かぁ」


 画面に映し出された眼鏡の青年。

 それにしても紫は目立つ。ある意味探しやすい。ネットの中だけの情報じゃ足りないけど、予想通りアッチは頭脳派。見た感じ通りだけどね。兵頭 伊織が喧嘩できるようには、とてもじゃないが見えない。

 手足ひょろひょろ、身長もそこそこ。お兄さんである怜央さんの体格はガッチリしてたけど、正反対だ。

 でも、厄介だねぇ。これは。


「仲違い……。そんな単純な感じでもないよなぁ」


 もう一つ、画面に映し出された写真。

 そこには仲睦まじい様子の彼等の姿。卒業した先代のbsのメンバーと今の彼等、そして一人の女の人と、兵頭 伊織。

 はにかんで笑う女の人。絶世の美女とかそういうんじゃないけど、黒茶のストレートの髪に、ちょっとツンと上がった目尻、控えめに上がった口角。凛とした佇まい。

 綺麗な人だ……。

 ぽふっ、とベッドに横になる。片腕を目に置いて、視界を覆った。

 ここ数日、家が静かなことに違和感があった。いつの間にか騒がしい彼等に慣れてしまって、ぬるま湯に浸かっていた。

 心の隙が命取りなのに、これじゃあ駄目だ。

 マレくんの言ってた、タイムリミット。誰の時間がないのか……。頭に浮かんだ誰かに、そんなわけないと思いつつ、私は眠りに落ちた。

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