ヨルの探偵Ⅰ


 いつ背後に立ったんだろう。全く気づかなかった。

 ペロっと私の唇を舐めてから、満足そうに「ゴチ」と言う龍彦の腹筋をポスポス殴る。照れ隠しの抗議だ。


「いくら人気がないっていっても外でキスする? 男装姿なのに……」

「ア? イイだろ別に」

「なんか楽しそうだね、龍彦」

「まァな。今日はテメェの目、俺が独り占めだ」


 …………ずっるいな。

 私の頬に手を当てて、すりすりと目元を撫でる龍彦が嬉しそうにしてるから、安心して猫のようにその手に擦り寄った。

 この傷だらけのゴツゴツした手も、私にだけは甘ったるく優しい。

 自惚れそうだと思いつつ、その手から離れてベンチから立ち上がった。

 ブーツのせいか、いつもより顔の距離が近い。


「キスしやすい距離じゃねェか? ン?」

「私、男装姿だけど」

「男でも女でも関係ねェ。オラ、舌出せ」

「やっだね! ほら、早く行くよ〜」


 今日も前払いなんてごめんだ。

 甘ったるい雰囲気に強引に持ってく龍彦と一定の距離を保ち、歓楽街に向かうことにした。

 キャッチのお兄さんや露出度の高いお姉さん、明らかにガラの悪い人たちを避けて、私たちはお目当ての場所に到着。

 キャバクラ 【 エデン 】

 煌びやかな店内を目の前に、思惑がニィ、と三日月を描いた。


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