ヨルの探偵Ⅰ
さぁ、探偵稼業の時間だ。
黒服に案内され、周りを視察しつつ煌びやかな店内に足を踏み入れる。誰でもいいと伝えて席に着くと、すぐに女の人がやってきた。
「ルルでぇす。よろしくお願いしまぁす」
「イチゴで〜す。お隣失礼しまぁ〜す」
どちらもまだ若い。20歳前後。露出の高いミニドレスを着こなして、甘ったるい声を出しながら私と龍彦それぞれにつく。
慣れた様子で龍彦が煙草の火を付けてもらい、煙を吐き出してアイコンタクトをしてきたところで気合いを入れた。
男になりきって、女を落とすような微笑を浮かべる。
「わぁ〜、お兄さんほんとにイケメン……。お名前なんて言うんですか?」
「白夜だよ」
「え、白夜くん? 名前すらかっこいい〜」
なんて皮肉な名前だろう。
白夜とは太陽が沈まない現象のことを指す。普段ヨルと名乗る私からすると皮肉すぎる偽名だ。
美形な客で嬉しいのかハイテンションのイチゴちゃんを前に、私は男装してる方が人生うまく行きそうだと思う。モテモテだ。
ふんわりとした笑顔で「ありがとう」と伝えると、顔が赤くなったイチゴちゃん。順調だね。
「えぇ、白夜くんほんとにかっこよくて好き……。よく見たらオッドアイだし、もしかしてハーフ? 私、本気になっちゃいそう!」
「ふふ、日本人だよ。ところで、イチゴちゃん? ここで働いて長いの?」
「うん〜! 長いよぉ、2年くらいかな〜!」
「そっか。──じゃあ、手首に流れ星のタトゥーある子知ってる?」
この様子なら色々教えてくれそうだと核心をつく問いを投げかけると、「ん〜? 手首にタトゥー?」とキャバ嬢イチゴちゃんは首を傾げる。
その間に龍彦を盗み見たけど、心底つまんなそうに煙草吸っていた。隣に座る女の子との温度差がすごい。あとから疲れたと文句言われそうだ。後払いだから高くつくだろうな。
そう考えていれば、放置していた隣のイチゴちゃんが「あ!」と思い出したように顔を上げた。