ヨルの探偵Ⅰ
ずいずいと近寄ってくるイチゴちゃんが「マリカ!」とその名前を出す。
それに、掛かった、と口角を上げた。
「マリカ?」
「そう! 不定期でここで働いてるんだけどねぇ、手首に流れ星のタトゥーあったよ〜」
「そっか。どんな子?」
「確か、歳が20後半くらいなんだけど、可愛くて人気で、でもちょっと……んん〜変な人?」
こてん、と首を傾げたイチゴちゃんに、もう少し情報を引き出したいと画策する。
基本的な情報が知れれば、あとは紗夜がネットから辿れる。できればこのお店で会いたかったけど、出勤は不定期らしいし。
隠れてイチゴちゃんと手を繋ぐと「な、なぁに〜」と彼女が焦るから、顔を近づけて耳元で囁いてみる。
「変って、どういう変?」
「えっとねぇ〜、どんなに若くてイケメンのお客さんに言い寄られても興味なさげで〜、男の影がないから女の子が好きなんじゃないかって噂が前に流れてね」
「レズってこと?」
「うん。でもその噂聞いて言い寄った女の子がいたんだけどぉ、興味なさそうだったらしいから、あくまで噂なの〜」
なーるほど。
こういう業界はLGBTに結構寛容だし、偏見もないからマリカがレズでもなんら問題はないっぽいけど。
……気になるなぁ。腑に落ちない。
「(うぅ〜ん、出直すかぁ)」
グラスの酒を飲み干したところで女の子たちが交代の時間となり、「まだ話したい〜」と腕を掴んできたイチゴちゃんに笑顔で「また今度ね」と言いつつ、小声で龍彦に話しかけた。
「知りてェ情報は得られたかァ?」
「そこそこね。でも本人見てないからなぁ」
「会えるかわかんねェだろ」
それもそうだ。てか聞いた方が早い。
龍彦が長時間アンダーグラウンドを空けて地上にいるのは良くはないから、これ以上の長居はできない。
地上で問題は起こせないし、巻き込まれても手は出せない。それに、あのクレイジーなアンダーグラウンドの連中が心配だ。