ヨルの探偵Ⅰ


 乗り込んで1階のボタンを押そうとしたとき「まってぇ〜」と最初に席に着いてくれたイチゴちゃんがやってきて、私は動きを止めた。


「どうしたの?」

「あのねぇ、思い出したことあって〜」


 耳貸して、という彼女に顔を傾ける。

 キョロキョロと辺りを見渡した彼女は、私の耳元で小さく話し始めた。


「そう言えば、マリカのスマホにね、すっごい綺麗な子供の写真があったの思い出して……。たまたま見えちゃったから内緒なんだけど、子持ちなのかもって」


 すっごい綺麗な子供の写真。ナイスだ、イチゴちゃん。

 耳打ちしてきた彼女は悪戯っ子のように「えヘへ、内緒ね。あ、これ連絡先あげるっ」と言い残し、急いで去っていった。

 私もエレベーターの閉じるのボタンを押し、ドアが閉じると龍彦と2人だけの空間になる。


「……で、アレが依頼人かァ?」

「うん。あれが消えた子供探しの依頼人」

「ヘェ。随分澄ましたオンナだなァ。ンで、この後はどうすんだよ」

「アハ、お好きにどうぞ?」


 挑発するように言えば、龍彦が不敵な笑い獰猛な顔つきで迫ってくる。でも唇が重なる寸前でエレベーターのドアが開き、お預けとなった。

 舌打ちをして煙草を銜えた龍彦を宥めながら、〈調べておきます〉と連絡してきた紗夜に〈よろしく〉と返す。

 そのまま人気のない裏道を2人で歩き、アンダーグラウンドに向かう途中、──事件は起きてしまった。

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