ヨルの探偵Ⅰ


 数十メートル先、荒らげた声と争う音がする。

 彼等の喧嘩する姿が頭を掠めた。慌てて引き返そうとするけど、来た方向からも声が聞こえてため肩を落とす。こんなハプニングいらないのに……。

 龍彦を見上げると、犬歯を覗かせ愉しそうに私を見つめていた。

 うっわー、嫌な予感。


「どんなモンか、見に行くかァ? ヨル」

「遠慮したいなー」

「オマエのお気に入りは見とかねェと」

「うそでしょー、ちょっ」


 否応なしに腕を掴まれ、ずるずると引き摺られる。喧騒が次第に大きくなってきて、あまりのタイミングの悪さに泣きそうだ。

 ギリギリ見えない位置から顔を覗かせて鑑賞し始めた龍彦に、ため息を漏らしながら便乗する。

 やはり見知った顔の面々がいて、落胆する他なかった。


「オォ、いい蹴りじゃねェかよ。殺り合いてェな」

「やめてよー。物騒だなぁ」

「……俺と髪色似てる奴、いるなァ」

「……………………あぁ、芝生?」

「ここでぶち犯されてェのかァ? ヨル」


 えぇ、ちょっとしたジョークじゃん。

 恐ろしいことをいう龍彦。実現されないようにお口にチャック。常識ってものがないからね、茶化すとガチでここでヤられちゃう。

 口を閉じつつ、見事に全員揃っててやだなぁ、と殴り合いをしてる彼らを見て思う。

 15人ほどに囲まれてる彼等。なんで全員で集まってるんだろう? 私は人が減ってく様子をただじっと観察する。結果、喧嘩はbsの圧勝で終わった。

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