ヨルの探偵Ⅰ
チラッと見えたリビングがヤケにピカピカだったのは、私がぶちまけた粉チーズをせっせと弟が片付けてくれたおかげだろう。
こんな悪行をおかす姉の朝ご飯もちゃんと作ってくれるあたり優しい弟だ。申し訳なさで縮こまる。
そして、確実に私の粉チーズ動画を見て笑ってるだろう虎珀くんをジト目で見ながら椅子に座った。
「朝陽ぃ、本当にごめんね〜。掃除もありがとう〜」
「……酔うのはいいけど、粉チーズはやめて」
「わかった。もうお酒も控えるねぇ」
当分は禁酒しようと反省しつつ、朝陽が作ってくれたクロックムッシュを頬張る。
完全に主夫で、掃除洗濯料理の家事を全てこなす我が弟に賛辞を贈りたい。プラスでダメダメな姉の世話も。
それにしても粉チーズか。前に玄関ですっ転んで血塗れへべれけ事件もあったけど、それ以上に酷いな。
和風ドレッシングを掛けたサラダを咀嚼しながら、思い出せもしない記憶を掘り起こす。
「それにしても、粉チーズぶちまけるって……。ごめん、帰りに買って帰るね」
「いや、それはいい。うちのじゃない」
「…………え?」
「うちのじゃない」
二度言われても、意味がわからない。
え? うちのじゃない? 自分が昨夜冒した失態の話なのに、全く言葉が理解できないよ?
黙々と食べ進める朝陽を注視していれば、横から虎珀くんが昨日のあらましについて教えてくれた。
「……つまり、私は夜中の3時にどっかの誰かの粉チーズを強奪した後、リビングに勢いよく振りかけてそのまま寝たと?」
「そ! 動画もあっけど見る?」
「見ない!!!」
なんてことだ……昨日の私よ……。