ヨルの探偵Ⅰ
記憶がないことが逆にありがたい。記憶があった方が恥ずかしさと申し訳なさ2倍で死ねる。往来を大手を振って歩けなくなる。
あと、マンションの住人に酔った姿を見られてないと祈るしかない。
もし目撃されていれば、今後私はマンションの住人と顔を合わすことができないし、そんな問題だらけの私と姉弟と認識されたら、更に朝陽に迷惑をかけてしまう由々しき事態だ。
「どれもこれもbsのせいにしてやりたい……」
「ん? なんか言った?」
「えー、なんもー」
お口パンパンのリスのようにパンを詰め込んだ虎珀くんに、笑顔ですっとぼけながらご馳走様と手を合わせて席を立つ。
もう全部、彼等のせいにした方が早い。
そう思いながら、もう一度昨日の黒歴史を反省した。
「ご馳走様、美味しかったよ」とまだ食べてる朝陽に言えば「お粗末さまでした」と返ってくる。本当に弟らしくない弟だね。
お皿をキッチンに持っていき、遅刻なのは仕方ないと自分を甘やかしてシャワーを浴びた。
私が髪を乾かしている間にもう家を出る時間になったのか、朝陽と虎珀くんは玄関で靴を履いていて目が合わないまま声を掛けられる。
「……今日は早いの?」
「うん? う〜ん、夜ご飯までには帰ってくるかな」
「わかった。いってきます」
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい、気をつけてねー」
2人を玄関で見送り、お昼までに間に合えばいいかとゆっくり準備をしようとソファーに腰を下ろして一息ついた。