ヨルの探偵Ⅰ
いや、僕の考えすぎだ。根拠も何もない。憶測でしかない。
首を振って、考えを消す。そんな僕の様子を、後ろから翔が見ていたなんて知る由もなく、日陰に足を踏み入れた。
そして、月夜のマンションの近く。
人影が、ひとつ。
「あれ……? 月夜?」
ぽつん、と寂しい背中。
後ろ姿で表情は見えない。それなのに、立ち竦んで動かない月夜に、不安が風船のように膨らんでいく。
前に居る蒼依も優介も、彼女の異様さが後ろ姿から伝わったのか、声を掛けることも近寄ることもままならず、困惑したような顔つきで距離を開けて静止していた。
もう一度。もう一度呼べば、きっと──
振り向いてくれる。
そう思って口を開くが、それが喉を通ることはなかった。
「──────のに、……」
「……?」
「────わかってたはずなのに、な」
言葉の意図は、わからなかった。
でも、諦めたような哀愁のある声の音色は、ひたすらに僕の心を揺さぶった。
誰に向けた言葉でもない。自分に言い聞かせてるような声で。月夜の弱さが、見え隠れしているようだった。
「────月夜」
「、」
翔が、彼女の名を呼ぶ。
その声に、少しばかり反応して、月夜は顔を向けた。
「は」と声が漏れる。蒼依や優介、または僕だったかもしれない。
けれど、そんなことはどうでもいいくらい。
────衝撃だった。