ヨルの探偵Ⅰ


 月夜は、笑っていた。

 この世の全てを諦めてるような、そんな力のない笑みだった。

 今にも消えてしまいそうな、危うい笑顔を浮かべた月夜に、焦燥感を抱く。グラグラと、足場が脆い場所で踊ってるようだ。一寸先は奈落の底なのに、愉しそうにくるくると回って、跳ねて、暗闇を見ないふりして進んでいる。


 勘違いじゃない。

 必ず、その手を掴まないと。

 手を伸ばす。

 彼女の手を掴んだのは──


「────よる」

「……」

「言ってなかったことがある」


 いつの間に、月夜の側にいたんだろう。

 音も気配もなかった。

 恭は引き留めるように月夜の腕を掴んで、その場に立っていた。強く握ってるようには見えないが、離さないという意志が伝わってくる。

 感情が抜け落ちたような表情で言葉を待つ月夜に、恭は言葉を続けた。


「俺は、無条件でおまえを助ける」

「……」

「そして、これはエゴだ。例え、助けを求められなくても手を差し伸べる」

「……なるほど。エゴかぁ」


 ぴくりと、恭の言葉に反応して答えた月夜。

 同様に、蒼依や優介も声の冷淡に驚いたように息を飲んで、反対に、翔はその一部始終を食い入るように見つめていた。

 大事なものを、見逃さないように。

 あと少しで、大事なことに気づけるのでは。

 そう、僕も思った。

 恭に続くように、すたすたと歩いて蒼依や優介を追い越し、彼女に近づく。無機質な瞳に自分が映ったのを確認して、口を開いた。


「何かあっても助けるよ。月夜がいると、女避けに丁度いいからね」

「それは、お互い、都合がいいかもね」

「そのくらい方が気楽でいいでしょ」


 敢えて、いつも通りの口調。普段通りの様子を貫く僕に、さっきとは違って淡くはにかむように月夜が微笑んだ。
 
 それに、ふっ、と安堵する。

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