ヨルの探偵Ⅰ


 冷水を全身に浴びたような気分だった。後に、優介はそう語った。

 敢えて僕が口にした言葉に、優介は頬を掻いて「ごめんな」と謝ってくる。その表情は、反省と情けなさが入り混じった複雑なもので、僕はすぐ目を逸らした。

 これまで、指摘したことはない。見て見ぬふりを続けた。

 でも、


「もうそろそろ、向き合わないと」


 終わらない。変わらない。

 誰かに業を背負わせて糾弾しても、──きっと、そこに意味なんてないのに。

 大切なら、どうなろうと向き合う覚悟が必要なんだよ。


「そうだな。莉桜の言う通りだ」

「あと、そろそろシノさんたちのとこに顔出すから。ついでに月夜も会わせよ」

「ははっ、それはまた厄介なことになるだろうな」

「ま、月夜のことは気に入るでしょ。どっちもクレイジーだし」

「そこは心配なさそうだ」


 どこか腹を括ったような顔つきの優介に、僕ももう一度覚悟を決める。

 僕らの尊敬する先輩と、彼女を引き合わせるということは、全く面識のない年上の彼等にも喝を入れるということになる。

 だって、月夜は見逃さない。絶対に。

 僕たちの壁をぶっ壊して進むような彼女が、僕らの先輩に臆するわけがない。


「信じてるよ、月夜」


 誰にも聞こえない声で、呟く。

 燦々と太陽が輝く中、僕はもうひとつの覚悟を決めた。

 あの日、恐ろしいと感じたものに。

 囚われ続けないという覚悟。

 もう、前を向く。


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