ヨルの探偵Ⅰ
もうここからは説明しなくてもわかること。長いようで短く済む話だ。他人からみた他人の人生なんてそんなもん。
いつの間にかチャイムが鳴っていた。無意識に中庭まで来たことに自分で驚きながら、寝るのに良さそうな木のベンチがあったことを思い出して足を進める。
そよそよと風が吹いていて、夏の気配に気を取られたのがまずかった。
「──……ゔっ」
「え、なに? なんか踏んだ?」
なにか人のようなものを踏んだ感触がする。気の所為だと信じたいけど、感触は人間ぽかった。喧嘩を売られる前に先手を打って早く詫びよう。
平和主義の私はさっさと謝ろうと下を向くが、謝罪する前に足元にいた何かが動いたことで悲鳴をあげることとなった。
そして困ったことに、悲鳴と共に、口に出す必要のない本心までポロリと零れてしまった。
「こ、こわぁ! なんでパーカーのチャック頭のてっぺんまで閉めてんのっ!?」
「……」
「しかも全身真っ黒だし制服着てないし、……もしや不審者?」
「……」
息してる? これ。
ベラベラと1人で喋ってしまったけど、微動打にしない黒い塊のようなものにどんどん懐疑心が増す。
謝罪以前にもしや踏み殺してしまったのでは? これは殺人罪なのでは?
えー、豚箱なんて死んでもゴメンだ。知り合いの刑事が喜んで手錠を掛けてくる。
未来で起こり得る危機的状況を回避するためにも、私は足元の黒い塊に声を掛けることに決めた。