ヨルの探偵Ⅰ
適当にSNSをチェックしていれば、既に駒が動いているのがわかる。信憑性が定かではないとは言え、僅かな真実が混ざってることがあるのがSNSだ。
「指先ひとつで情報が得られるか〜」
利便性を評価しつつ、背凭れに体を預けて紗夜はどこまで情報流してくれたか予想する。
情報機械系を担当する紗夜に連絡を入れ、あちらさんも意外と行動が早いことに感心しながら、私は制服のシャツに腕を通した。
青のチェック柄のネクタイを結び、同時進行で進めている依頼の進行状況を確認して、ソファーに逆戻り。二日酔いがないだけマシだけど、気力がない。
画面の暗いスマホに、視線を落とした。
〈昨日の夜、bsの2人が歓楽街にいたよ〉
〈最近、チンピラが少ないような〉
〈あるヤクザのお偉いさんがクラブに来たって〉
ふむふむ。いい感じ。やる気があって何よりだ。
ソファーから立ち上がり、身支度を済ませて玄関に向かう。オートロックのマンションは鍵のかけ忘れがなくていい。身軽な私はエレベーターを待ちながらイヤホンを耳に挿した。
年に数回しか帰ってこない保護者が安全面を考えて最上階にしたものの、実はこのエレベーターを待つ時間が地味に憂鬱。つま先をトントンと一定リズムで刻み、エレベーターに乗り込む。
「絶対に安全な場所なんてなーいのに」
ふと漏れた声。監視カメラが音を拾うものじゃなくてよかった。
1階でエレベーターを降りて外に出ると、陽射しがキツい。目を細めながら、私はマンション下に住み着いた猫ちゃんに朝の挨拶。
「おはよう、猫」
名前は知らない。つけてもない。
猫を猫と呼んで挨拶している。
野良猫の茶トラの猫ちゃんは、ここら辺のボスなのか顔は険しいけど鳴き声は可愛いギャップの主だ。