ヨルの探偵Ⅰ
必然と偶然


────────────
────────


 はしる。はしる。はしる。

 どこにもいない。

 どこを見渡しても、どこを探しても、どこを歩いても、あの子はいない。


「……どぉして、ふっ、ぅ」


 ぼろっ。大粒の涙が、少女の目から零れた。

 地面にしゃがみこみ、人目も憚らず声にならない泣き声を上げた。夜中でもネオンが煌めくこの場所では、目立って仕方ない。

 でも、少女を気に掛ける大人はいなかった。

 こんな場所では。


「〜〜っ、だれか……っ、たすけて……!」


 おねがいします。

 なんでもします。

 あの子を、みつけてください。

 止めようのない涙を手の甲で乱雑に拭って、少女はある噂を思い出す。


「よるの、たんてい」


 真夜中二時。電話BOX。3コール。

 御伽噺のような。

 そんな到底、真とは、思えない。──ただの噂話。

 しかし、少女は。

 そんな御伽噺を、信じるしかなかった。


「どこ、どこの……っ」


 少女は、駆け出した。

 はしって、はしって、ころんで、またはしる。

 望みは、一度きり。

 辺りをキョロキョロと見渡しながら、ポツンと佇む錆びれた電話BOXが視界に映る。


 ────これだ。直感で、そう思った。

 近くの時計台。時刻は1:57だ。間に合う。

 少女は、電話BOXに入って、ひたすら針が2を指すまで待った。

 2:00

 かちゃん、音のなる受話器を手に取る。


 心臓がうるさく跳ねた。

 プルルルル、プルルルル、プルルルル──……3コール鳴った。



「はい。此方、夜の探偵屋です」



 耳障りのいい、ハスキーの声が耳を掠った。

 ほんとうだ。ほんとうだった。

 夜の探偵は、いた。

 また涙が零れ落ち、嗚咽が漏らしながらも、藁にもすがる思いで少女は叫ぶ。



「────たすけて」



 どうか、おねがいします。


< 401 / 538 >

この作品をシェア

pagetop