ヨルの探偵Ⅰ
必然と偶然
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はしる。はしる。はしる。
どこにもいない。
どこを見渡しても、どこを探しても、どこを歩いても、あの子はいない。
「……どぉして、ふっ、ぅ」
ぼろっ。大粒の涙が、少女の目から零れた。
地面にしゃがみこみ、人目も憚らず声にならない泣き声を上げた。夜中でもネオンが煌めくこの場所では、目立って仕方ない。
でも、少女を気に掛ける大人はいなかった。
こんな場所では。
「〜〜っ、だれか……っ、たすけて……!」
おねがいします。
なんでもします。
あの子を、みつけてください。
止めようのない涙を手の甲で乱雑に拭って、少女はある噂を思い出す。
「よるの、たんてい」
真夜中二時。電話BOX。3コール。
御伽噺のような。
そんな到底、真とは、思えない。──ただの噂話。
しかし、少女は。
そんな御伽噺を、信じるしかなかった。
「どこ、どこの……っ」
少女は、駆け出した。
はしって、はしって、ころんで、またはしる。
望みは、一度きり。
辺りをキョロキョロと見渡しながら、ポツンと佇む錆びれた電話BOXが視界に映る。
────これだ。直感で、そう思った。
近くの時計台。時刻は1:57だ。間に合う。
少女は、電話BOXに入って、ひたすら針が2を指すまで待った。
2:00
かちゃん、音のなる受話器を手に取る。
心臓がうるさく跳ねた。
プルルルル、プルルルル、プルルルル──……3コール鳴った。
「はい。此方、夜の探偵屋です」
耳障りのいい、ハスキーの声が耳を掠った。
ほんとうだ。ほんとうだった。
夜の探偵は、いた。
また涙が零れ落ち、嗚咽が漏らしながらも、藁にもすがる思いで少女は叫ぶ。
「────たすけて」
どうか、おねがいします。