ヨルの探偵Ⅰ
BARの奥に通じる部屋はパソコン部屋として紗夜が使っていて、約7畳程度。これまた薄暗い部屋に、大小様々なパソコンやモニターがデスクに5台ほど並べられている。液晶画面が眩しい。
その他電子機器や配線が沢山あるのを避けながら、デスクの前に張り付く紗夜の元に向かった。
基本ここで依頼の電話を受けるが、とにかく窮屈だ。踏みそうで怖い。
私が駆けつけると紗夜が焦ったように「これ聞いてください」とミュートを解除して、スピーカーをオンにした。
そして、私は息を飲んだ。
「──は? ……なにこれ、偶然?」
にわかには信じがたい偶然とは思えない依頼の内容に、紗夜があれほど慌てた理由も理解できた。
スピーカーからは、まだ少女のような声色が啜り泣き必死に助けを求めていて、泣きながらも事の詳細を説明している。
電話はまだ繋がっていた。
「紗夜、位置情報。これが無関係とは思えない」
「同感です。スマホに送りました」
「依頼は引き受けて。そして、なるべくその子がそこから動かないよう引き止めて。あと、夜白とマレくんにも説明お願い。私は向かうから」
「了解です」
息継ぎをする間もなく、矢継ぎ早に口にして、パソコン部屋を出た。夜白とマレくんの驚いた表情を一瞬視界に入れながらもBARを飛び出す。
位置情報からして、そんなに遠くない。最短距離の道を全速力で走れば、5分以内に着く。
息を切らしながら走り続けること4分。錆びれた電話BOXと、その中に小さな背中があることに肩の力を抜いて息を吐いた。
「クッソ暑っつい……! 運動不足……っ!」
ぜぇぜぇ、と息を吐いた。
最短距離のためとはいえ、舗道された場所じゃなく民家の間を突っ切ったり、塀を飛び越え草木に突っ込んだせいであちこち傷ができた。服に枝が引っ掛かってるし……。
これで話しかけたら警戒されそうだ。最低限、見える範囲で身なりを整え、まだ居る少女の元に向かう。
あと数メートル。
ぱちり、少女と目が合った。
「えっ」
で、何故か一目散に逃げられた。