ヨルの探偵Ⅰ
BARに戻って、30分程経った。
唄ちゃんは、ぽつりぽつりと、今にも消えそうな声で千尋くんと出会った時の話をした。
泣きそうになりながらも唇を噛んで耐えて話す唄ちゃんを見て、こんなにも小さな少女が現実を足掻いてる様に形容し難い感情が湧き上がる。
「また明日って言ったのに、千尋は来なかった。次の日も、その次の日も」
「……」
「約束したんです。一緒にいようって、迎えに行くって」
「そっか。……唄ちゃんは、強くて優しいね」
この少女を、少年を、助けなくては。
ヨルに、価値なんてない。
ぎゅーっと力いっぱい抱き締めて「大丈夫、千尋くんを迎えに行こ」と言うと、堰を切ったように唄ちゃんは泣き出した。
その姿に、紗夜も悲しそうな表情で唄ちゃんの背中を摩る。夜白も眉を下げ、ぎこちなく胡桃色の頭をぽんぽんと撫でた。
「唄ちゃん、家に帰らなくても平気?」
「……ぐすっ、はい、いなくなっても気にされないので……」
糞親とは言ったもんだね、ほんと。
私は怯えさせないようになるべく平静を保ち、感情を表に出さないよう抑える。
第一にすべきなのは、汚れてる唄ちゃんをお風呂に入れて、しっかりと手当てをして、ご飯を食べてもらい安全な場所でゆっくり寝かせることだ。
「おっけい。じゃあひとまず、奥の部屋にいてもらうから。紗夜、唄ちゃんお風呂入れてもらっていい? その間に夜白がご飯を作ります」
「……自分が劇物しか作れねぇからって」
「本日ホットケーキをダークマターにした私の手料理食べたいの? ん? 夜白は食べたいの?」
「…………やだ」
だよね。てことでよろしく。
遠慮がちに「えぇ」と困惑してる唄ちゃんには押し強めで「はい、いってらっしゃーい」と送り出す。もちろん紗夜も一緒に。
そして、二人の姿が奥に消えたのを見計らって煙草に火をつけ、思いっきり苦さを吸い込んだ。
あーもー、胸糞悪いったらありゃしない。