ヨルの探偵Ⅰ
車に揺られること数分、既に地獄である。数分が数時間に感じられるほど、両側からの圧が強くて言い訳のしようがない。
満面の笑みでにこにこだった空気を読めない男ゴンちゃんも、今回ばかりは空気を察して黙ってる。
空気読めない(KY)の使い所なんて、今しかないでしょうよ。力発揮してよ! お願いだから!
そんな心の声が届くはずもなく、いつもと変わらない穏やかな笑顔が浮かべてる優介くんに、なんとなくビクビク怯えながら行き先を聞いた。
「あ、あの〜」
「ん? 何かな?」
「えっとぉ、どこ行くのかな〜って」
「俺ん家だよ」
お、れ、ん、ち?
え、行き先をはまさかの橘家? 莉桜くんも住んでる橘家? ちょっとまって展開がはやいよ?
というか冷静に考えて、まずくない? 早朝に息子がこんなあからさまにヤバそうな女を家にいきなり連れてきたら、それはそれで問題だよね?
「OK、わかった。車降りていい?」
「それは了承できないかな」
「わかったわかった、じゃあ水無瀬家にしよう?」
「却下。月夜の尋問は、家着いてからね」
「(ジーザス…………)」
車から飛び降りたい。
窓から見える景色が移り変わる度に、冷や汗が吹き出る。逃げろと脳内で喧しくサイレンが鳴った。
でも、私の座ってる場所は後部座席の真ん中。両隣は実は腹に一物詰め込んでる優介くんと、眼圧も何もかも強くて切れ味抜群な莉桜くん。何も出来ん。
とにかく縮こまって、目的地こと橘家に着くまで現実逃避で窓を眺めた。