ヨルの探偵Ⅰ
着いたのは、普通の一軒家……と言いたいところだが、全くもって普通ではなかった。
まず玄関。真っ白で緩やかなカーブの大型アーチの門がご登場。白やピンクの様々な薔薇が咲き誇り、アーチを覆っている。
それだけでも驚くのに、ハートの矢を持った天使姿のキューピットの彫刻とかいるし、玄関のドアも美しい絵柄が施されていて、言葉が出ない。
なんだろう、別世界に来たのかな……?
「はは、びっくりしたよな。これ全部母さんの趣味なんだ」
「ファンシーなお家だね………」
「ここの庭、いつ見ても凄いよね。もはや庭園」
頬をかいて微苦笑する優介くんに何も言えない。
莉桜くんの言葉に同意だ。庭園だよ、こんなの。しかも手入れもしっかりされてる。
ようやく橘家に着いてゴンちゃんに「ありがと、またねん」と声を掛けて降りた瞬間、まさかの目の前に広がる薔薇。思わず硬直して目をまん丸にした。
そんな私の様子に、「なると思った」と反応が想像できたんだろう無表情の莉桜くんと苦笑いの優介くん。
これ、まじか……。不安が増したよ……。
「中に入ろうか」
「えっ、まって心の準備……。てかやっぱり手ぶらはまずいから一旦逃げていい?」
「だめ。縁さんそんなの気にする人じゃないし」
「そういうことじゃないよぉ……」
言葉を返すも、聞く耳を持ってくれない。
最後は引き摺られるように玄関のドアの前まで来ちゃったわけだが……。優介くんがドアノブに手を掛け引く前に、勢いよく反対側からドアが開いた。
「ちょっ、母さん危ないだろ……!」
「ドア壊すんじゃないの、そのうち」
開いたドアの衝撃に優介くんと莉桜くんが呆れた言葉を漏らす中、私だけ音と勢いに驚いてると、現れたのはテラコッタカラーのふわふわの長い髪の女性。
真っ白のフリフリのエプロンを付けたまま、優介くんと同じダークブラウンのまん丸の瞳が、私を見つけてキラリと光った。
「あなた────っ! お、女の子よ────っ! 念願のっ、娘っ!!!」
………………え?
高らかにそう叫んだ可愛らしい女の人に、私はまたも衝撃を受け、優介くんは仕舞いに頭を抱えた。