ヨルの探偵Ⅰ
口元に手を当てて、「う〜ん」と唸る様子を俺は黙って見つめる。
「困ったなぁ」
「おい、聞こえてる」
「とても困っているなぁ」
本人目の前にして堂々と言うとか、肝が座ってんな。
とにかく異質な女にこれまでにない興味を抱いた俺は逃がさないと目を見つめる。それに、僅かに眉を寄せた女だが、面倒になったのか動きを止めた。
そして「まぁ、いっか」と自己完結していきなり警戒心を解いた猫のようにだらけるから予測不能。
「(……呑気か)」
心の中で、そう呆れる。
あまりにも拍子抜けするその態度に、変な女だなと思いながら俺も隣に腰を下ろした。
すると突然鞄から数学の問題集を出して「はい」と渡してくるから、俺は意味もわからないまま分厚い問題集を受け取ってしまう。なんだこれ。
「その数学の問題集やって?」
「……は?」
「私はそれやるの面倒だし、君は暇してる。丁度いいかなって〜」
「いや意味わかんねぇ。なんだその理論」
完全に女のペースに乗せられてる俺は、分厚い問題集片手に眉をひそめた。初対面の奴に無駄に分厚い問題集解かせようとする真意はなんだ? 嫌がらせか?
けど、横で眠そうに欠伸を噛み殺してる様子を見て、益々混乱する。冗談かと思ったけど、解かないのかと言いたげな視線を寄越され、俺は仕方なく問題集を開いた。
明らかに高校生に解かせるような内容じゃない問題が最初のページから記述されていて、額の皺が寄る。
俺はまだ入学したばかり。解けなくても当然のような問題だ。