ヨルの探偵Ⅰ
ようやく落ち着いて椅子に座れる。朝から怒涛の展開で疲労困憊の体に、あまーいホットケーキが染み渡った。ふわふわ、美味しい。
もっもっ、とホットケーキを頬張ってると、登場の遅かった翔くんに何してたの? と莉桜くんが疑問を投げかけるから、私も同じように首を傾げる。
ちょっと言いづらそうな翔くんが視線を逸らした。
「別に、なんも」
「あら? 翔くんさっき着せた部屋着は着替えちゃったのね、可愛かったのに」
「……縁さん、言わないでって言った」
「「「なるほど」」」
縁さんの一言で、とってもファンシーな部屋着でも着せられたんだろうなと察した私と優介くんと莉桜くんの言葉がハモる。
短時間でも、このほわほわした縁さんが有り得ないくらい押しが強いことがわかったよ。
でも、ほんといい家だなぁ。橘家。
スーツを着て、これから仕事に向かう優介くんパパに「頑張ってね、気をつけていってらっしゃい」とラブラブな様子で声を掛けてる縁さん。
優介くんパパも、「頑張ってくるよ。ありがとう、いってきます」とイチャイチャ。微笑ましい夫婦だ。
それに、「月夜ちゃん、夜までいて寛いでていいからね」とも言ってくれた。
「優介くんの穏やかさの理由がわかった気がするよ」
「ははっ、それはありがとう」
「和むし、落ち着くし、安心するもん」
これは本音だ。
懐かしい雰囲気を思い出してか、気が抜ける。
だけど、思い出したところでどうせ変わらない。今あるあの形が全てだ。
しっかり者で可愛い弟の朝陽に、放浪癖のある保護者、ヨルとしての仲間であり家族に、たくさんの繋がりがある。
何も、思い出す必要なんてない。懐かしむ必要も。