ヨルの探偵Ⅰ
縁さんもどうやら様子のおかしい翔くんをスルーする方向に決めたようで、楽しげに「どうして?」と理由を聞いてくるからそれに答える。
「私が考え得るものの中で、一番最適で最善だと思う答えをくれます」
たくさんの選択肢。
何を選んでも、正しいも間違いもない時。人によって答えが違う時。私が思う最善を、翔くんは必ず選んでくれる。それは、信頼と似ている。
でも、少しだけ違う。私の中で出た答えは、翔くんの答えになら〝賭けてもいい〟だった。
私の答えに、縁さんは少し目を丸くし、間を置いたあと柔らかく笑った。
「それは、いい理由ね」
「もちろん、それ以外にも理由はありますよ。翔くんと話していると落ち着きます。あといい匂いです」
つられて笑うと、次は優介くんが「ゴフッ」とまたコーヒーを噎せていて大丈夫かと心配になる。
翔くんもテーブルに伏せって顔を腕で覆い隠してから一向に出てこない。え、ほんとに寝たの?
興味なさげな莉桜くんだけがいつも通りだ。
「ふふっ、2人は仲がいいのねぇ。莉桜くんが妬いちゃうわ」
「ねぇ、僕を巻き込むのやめて。妬いてないし」
「あら? 〝唯一の女友達〟なんでしょう?」
「──っ! も、うっ、なんで言うわけ……っ」
と、思いきや突然の私にとっては嬉しい暴露。
当の本人は、ぼふっと顔を赤くして恨めしそうに縁さんを睨んでいる。
照れ隠しのように「そんなこと言った覚えないし」と呟いていたが、耳まで真っ赤だったのを横に座ってた私は見逃さなかった。
「私も、莉桜くんが友達で良かった」
「ふんっ、感謝してよね」
そっぽを向いた莉桜くんに、にやけた顔が見られないよう「うん!」と返す。
そんな私たちの様子を見て、縁さんが安心したように微笑んだのは誰も見ていなかった。