ヨルの探偵Ⅰ
目の前に鎮座する怒ったら怖いだろうナンバーワン優介くんが、笑顔のまま聞いてくる。
「昨日の夜、遊んでたとかじゃないよね?」
「え、うん、もちろん……!」
遊びじゃないよ。仕事だよ。
なーんて、言える訳もなく。圧強めの優介くんに引き攣る笑顔のまま首を縦に振った。
さて、どうにも逃げられない状況下でなんて説明しようかと今回の経緯について考える。
ぶっちゃけ、今回は見事に動きが取りづらい上に厄介な事情が重なっている。ばれずに動くのは無理だ。つまり、わかってもらわないといけない。
「私にも、独自のコミュニティがあったりしてね。そこでトラブルが起きたんだぁ」
「ふぅん、それは気になるけど……。僕たちに話せる話なわけ?」
「簡単に噛み砕いてなら、ね」
下から顔を見上げてきた莉桜くんに、主導権を握れるような余裕のある笑みを返す。
優介くんも興味ありげな顔でこっちに視線を合わせてくる中、横で肩同士がくっついてる翔くんだけが何の反応もしない。
拒絶とか興味がないとか、そうじゃない。
ただ、指先ひとつ動かさずに、空虚に部屋のどこかを見つめている。
「で、トラブルって?」
「あ、うん。育児放棄とか虐待で亡くなる子供が年間どれくらいいるかわかる?」
「え……?」
「ああ、ごめん。数字じゃなくてさ、親の過失で子供が生きるという行為すら奪われてしまうって話」
予想していなかっただろう重たい話に、優介くんは顔を曇らせていたし、莉桜くんも何かを考え込むように視線を落とした。
最初に与えられた環境が、恵まれたもの限らない。
スタート時から、不平等で理不尽な世界で生きてきた子供が、どうやってこの世界に夢を見れるだろう。
「大人だって必死に生きてるこの世界で、どれだけの人が、助けてっていう小さな子供に手を差し伸べられるんだろうね」
最後は、自分に問い掛けてるような語り口だった。
雲一つない晴れた空が窓から覗いてるのが嘘のように、部屋全体が翳ったような気がする。