ヨルの探偵Ⅰ
しかし、固まる俺に女は心底不思議そうに訊く。
「……えっ、解けないの?」
「俺、1年」
「でも君首席だし、数学は得意でしょ?」
当たり前のように吐かれた言葉に目を見開いた。首席だったことは入学式に参加した人なら知ってるだろうが、なんで得意なことまでわかる。
まるで俺の事を見てきたかのような言い方だ。
でも、やっぱり女にマイナスな感情は抱かない。むしろ余計に気になった。
とりあえず、なんで知ってるのかと疑問を込めて訝しげに女を見つめれば、「ん〜」と何か思案した様子で首を傾げて口を開く。
「数学が苦手なら、その分厚い問題集開こうとはしないだろうし、開いて問題を確認した時点で解けるかどうかの判断したんじゃないかなぁ〜って思って?」
「それだけで?」
「強いて言うなら、君の担任で数学担当の先生が話してたの聞いた。数学が得意って」
最初の言う必要あったかよ。女の一挙一動で遊ばれてるみたいなのは不服な俺は眉を寄せるが、そこでまた疑問が生まれた。
さっきから、まるで俺のことを認識していたような口ぶりというか内容だ。俺のことを知っていたなら、余計にこの態度が気になる。
媚びを売るわけでもなく、ただ平然と他愛ない会話を向けてくるのは珍しい。
俺の名前を知ってるってことは、〝俺ら〟のことを知ってるってことになる。普通なら何かしらの反応をするのに、この女はしない。
……変だ。それなのに親近感さえ湧く。