ヨルの探偵Ⅰ


 そして、ペッタンペッタンとハンバーグのタネを作ること数分。

 月夜ちゃんは料理が苦手だったらしく、包丁の持ち方からレシピまで細かく母さんに教えられ、四苦八苦しながらも何とか怪我をせずにここまできた。


「すみません。料理音痴なもんで……」

「全然いいのよ〜! でもお家じゃご飯はどうしてるのかしら?」


 母さんが純粋に言葉を投げかけると、困ったように月夜ちゃんは眉を下げて笑って「弟が作ってくれます」と答えた。

 弟の朝陽くん曰く、放っておくとご飯を食べないらしいからな、月夜ちゃんは。

 俺は月夜ちゃんの健康が心配だよ。


「そうなの〜! 良い弟くんね〜!」

「何度か月夜ちゃん家で食べさせてもらったけど、全部美味しいし、本当になんでもできる子だよ」

「しっかり者なのね〜! 今度、優介たちがお世話になったお礼をしなくちゃだわ!」

「世界一かわいい弟です。それに、こちらこそ優介くんたちには、いつもお世話になってるので……」


 顔を緩ませた月夜ちゃんに、母さんも嬉しそうに笑った。

 月夜ちゃんは朝陽くんのことになると柔らかい表情をするな。俺は、水無瀬家で2人がじゃれてるとこを思い出して和ませてもらう。

 この前も「姉ちゃんアイス食いすぎ」「まだ2個だもん」「4個目だろ」「……え、なんでバレた?」と仲睦まじい会話をしていた。

 まぁ、アイスは食べ過ぎだったけどな。

 血が繋がってないことを聞いた時は驚いたけど、本当に似てるしなと思っていれば、母さんが俺らも気になってた話題を質問として彼女に投げかけた。


「そう言えば、月夜ちゃんのご両親はどんな方なのかしら?」


 ぴたり、と。

 あまりにも不自然に月夜ちゃんの動きが止まった。

 ソファーでテレビを見てた莉桜と翔も、俺たちの会話が聞こえてたのか、気にする素振りで月夜ちゃんの声に耳を寄せている。

 しかし、当の本人は、小さく呼吸を止めたかと思うと顔を強ばらせた。


「ごめんなさいね、聞いちゃまずかったかしら……」

「いえ。……両親は、私が小さい頃に亡くなったので覚えていません。今は世界を放浪してる後見人の保護者がいて、その人が連れてきたのが弟です。なので、血の繋がりのある人は身近に誰もいません」


 淡々と簡潔的に言い切った月夜ちゃん。

 ただ、俺たちが衝撃を受けるには充分すぎる話だった。

< 463 / 538 >

この作品をシェア

pagetop