ヨルの探偵Ⅰ
そして、ペッタンペッタンとハンバーグのタネを作ること数分。
月夜ちゃんは料理が苦手だったらしく、包丁の持ち方からレシピまで細かく母さんに教えられ、四苦八苦しながらも何とか怪我をせずにここまできた。
「すみません。料理音痴なもんで……」
「全然いいのよ〜! でもお家じゃご飯はどうしてるのかしら?」
母さんが純粋に言葉を投げかけると、困ったように月夜ちゃんは眉を下げて笑って「弟が作ってくれます」と答えた。
弟の朝陽くん曰く、放っておくとご飯を食べないらしいからな、月夜ちゃんは。
俺は月夜ちゃんの健康が心配だよ。
「そうなの〜! 良い弟くんね〜!」
「何度か月夜ちゃん家で食べさせてもらったけど、全部美味しいし、本当になんでもできる子だよ」
「しっかり者なのね〜! 今度、優介たちがお世話になったお礼をしなくちゃだわ!」
「世界一かわいい弟です。それに、こちらこそ優介くんたちには、いつもお世話になってるので……」
顔を緩ませた月夜ちゃんに、母さんも嬉しそうに笑った。
月夜ちゃんは朝陽くんのことになると柔らかい表情をするな。俺は、水無瀬家で2人がじゃれてるとこを思い出して和ませてもらう。
この前も「姉ちゃんアイス食いすぎ」「まだ2個だもん」「4個目だろ」「……え、なんでバレた?」と仲睦まじい会話をしていた。
まぁ、アイスは食べ過ぎだったけどな。
血が繋がってないことを聞いた時は驚いたけど、本当に似てるしなと思っていれば、母さんが俺らも気になってた話題を質問として彼女に投げかけた。
「そう言えば、月夜ちゃんのご両親はどんな方なのかしら?」
ぴたり、と。
あまりにも不自然に月夜ちゃんの動きが止まった。
ソファーでテレビを見てた莉桜と翔も、俺たちの会話が聞こえてたのか、気にする素振りで月夜ちゃんの声に耳を寄せている。
しかし、当の本人は、小さく呼吸を止めたかと思うと顔を強ばらせた。
「ごめんなさいね、聞いちゃまずかったかしら……」
「いえ。……両親は、私が小さい頃に亡くなったので覚えていません。今は世界を放浪してる後見人の保護者がいて、その人が連れてきたのが弟です。なので、血の繋がりのある人は身近に誰もいません」
淡々と簡潔的に言い切った月夜ちゃん。
ただ、俺たちが衝撃を受けるには充分すぎる話だった。