ヨルの探偵Ⅰ
何も聞くなと言わんばかりの月夜ちゃんに対して、察した母さんが「そうなのね」とそれ以上は深く追求せず話題を変えた。
でも、俺たちは、受けた衝撃の動揺をすぐに拭うことは出来なかった。
ずぶっと真っ黒に堕ちた目が焼き付いて、月夜ちゃんの一片を見えた気がしたが、配達のインターホンによって杞憂に終わらせられる。
「は〜い、今行きます〜! ……あ、優介! 月夜ちゃんとフライパンのハンバーグ見てて〜!」
パタパタとスリッパを鳴らして玄関に向かった母さん。こういう、気持ちの入れ替えが上手いとこは子供としても凄いと単純に思う。
母さんの姿が見えなくなると、月夜ちゃんも気持ちが切り替わったのかフライパンを凝視してる。
〝見てて〟って言われたから、〝見てるだけ〟のつもりだろうな。
「月夜ちゃん、あれは焦げないように、見てるだけじゃなくて火も止めてって意味なんだ」
「……やっぱ私は、料理不向きだなぁ」
「料理は火加減と分量さえ間違えなければ大丈夫だと思うよ」
「それ過去の私にも言ってほしいな」
へらりと笑ってくれた月夜ちゃんに安心する。
莉桜と翔も視線だけはテレビに向けてるけど、安心したように肩を落としてたから、今の会話も聞こえてたんだろう。
戻ってきた平穏に俺も一息つくと、フライパンを見下ろしてたはずの月夜ちゃんがこっちを見てて、視線が合わさる。
ドキッ、と不自然に心臓が鳴った。
「優介くんたちは、誰にも知られたくない秘密が白日の元に晒されることが条件でも、夜の探偵屋を見つけたい?」
「そ、れは……っ」
なんで、今なんだ?
俺たちは、ずっと探している。その嘘か本当かも分からない都市伝説のようなものを求めて。
ただ、月夜ちゃんが手掛かりだとしても、足掛かりのようには使いたくないと思えるほど、いつの間にか彼女の存在は心の隙間に入り込んでいる。
俺たちは、その自分たちの感情の戸惑いら今まで求めていた話題を敢えて避けていた。
なのに、どうして彼女の方から──?
「ヨルから伝言だよ。君たちの秘密を暴く、と」
「っ、ヨル!? 月夜ちゃん、それは──っ!」
「それでも君たちはまだ追いかける?そこまでして、──……何故?」
試されるような、目だ。
俺たちの会話が聞こえていたはずの莉桜と翔が、こちらを見ていた気がしたが、それすら気に留めることができない。
吸い込まれそうな彼女の瞳。
────俺は、ようやく気づいた。
俺、だからだ。
この質問を投げ掛けるのは、bsの誰よりも夜の探偵屋に固執して、盲目になっていたのが、俺だったからだ。
莉桜にも言われた。向き合え、と。
そうだ、向き合うんだ。現実と。