ヨルの探偵Ⅰ
真っ直ぐに彼女を見つめて、偽りのない本心を、口にした。
俺の言葉に、満足そうに月夜ちゃんは「そっか」と一言だけ言って視線を逸らす。
余裕ができて、俺も大丈夫という意味を込めて莉桜と翔の方に視線を向けると、2人とも少しだけ口角を上げた。
言葉にして本心を伝えたからか、スッキリしたな。
「あら? 優介、何かいいことでもあったの?」
「ふふ、いい事?」
「そうかもな。いい事があったかな」
月夜ちゃんが茶化すように笑って見上げてくる。
玄関先から戻ってきた母さんも吹っ切れた俺を見て不思議そうに首を傾げたが、すぐに手に持った荷物を嬉しそうに開け出した。
でも、ジューとハンバーグが焼ける音がして我に返ったのかキッチンに戻ってくる。
「いい匂いねぇ、お腹空いちゃうわ」
「ですね〜」
「恭くんも蒼くんも、補習終わらせて帰ってくる頃かしらね?」
「(……!!!)」
すっかり忘れていた2人の話題を出された月夜ちゃんが目をまん丸くさせて俺の方を見てくるけど、もう手遅れかもしれない。
玄関からガチャ、とドアを開ける音がして「ただいま〜」と呑気な声が聞こえる。
「おかえりなさい、恭くん蒼くん〜」
「ただいま〜、縁さん。今日ハンバーグ〜? 月夜ちゃんは、ど……こ…………………」
「…………ただいま。……よる、は……?」
「……」
「……」
「ぶっふぁ……っ! あっはっはっ! 可愛いじゃねぇの月夜ちゃん、ふははははっ、死ぬ……!」
「服、すごいな」
「(…………おわった)」
絶望した表情で顔を手で覆った月夜ちゃんに、大爆笑の蒼依、素で致命傷の言葉を吐いた恭のせいで、空気がまたカオスになったのは言うまでもない。
end.