ヨルの探偵Ⅰ
少女は夜の探偵屋の活動拠点である薄暗いBARで夜を過ごし、戸惑いつつも2日目にようやく慣れてきたところだった。
どこか危うさと美しさを持ち合わせたヨルという人物に、少女は非現実感を味わいながらも安心していたが、彼女は朝方出ていってしまった。
あからさまに不安そうな顔をする少女に、紗夜も夜白も世話を焼き、少女が慣れた頃──ある問題が起きた。
「マレ。私たちは仕事するので唄ちゃんを見ててもらいたいのですが」
「……オーケー」
「言葉通り〝見てるだけ〟はしないで下さいね」
「紗夜は厳しいネ! ハイハイ、わかってるヨ〜」
キツく睨まれたマレという名の人物は、エメラルドの瞳を隠すように目を閉じて大袈裟に肩を上げる。
紗夜が心配しつつもヨルに頼まれた作業をするため自室に籠ると、夜白も同時に自室で作業を開始。
暇人のマレと少女はバーカウンターで向かい合い、ぎこちない距離感のまま2人きりになった。静寂を破ったのは、少女の方。
少女が投げかけたのは、質問だった。
「あの……。ヨルさんって、どんな人ですか?」
単純で純粋な質問。
自分を助けてくれると言ったヨル。そのヨルという人物をよく知るだろう人に、どんな人なのかを客観的に聞いてみたかった。
マレは少女の質問にキョトンを目を丸くして、何度か瞬きした後、妖艶に答える。
「ヨルは、────甘くて、中毒性があって、泡沫の幸せみたいなモノだよ」
「……泡沫?」
「ウン。すぐヨルは居なくなっちゃうカラ」
悲哀に暮れた言葉でも表情でもなかった。
何気ない本心を口にしたマレだが、ここに紗夜や夜白、本人であるヨルがいたら大層驚く発言だったろう内容に、少女は気付く由もない。
続けざまに、少女は質問をぶつける。
「マレさんにとって、ヨルさんって大事な人?」
──私が、千尋を大切なように。
真っ直ぐな少女の声色に、マレは自分の感情を隠すように視線を伏せた。無邪気な子供の質問に感情が引っ張られているのだろうか。
いつもならのらりくらりと躱す質問に、なんて答えようかマレは頭を悩ませる。