ヨルの探偵Ⅰ
ヨル。
自分にとって、ヨルの存在は──。
考える必要もない質問だ。それでも、言葉の取捨選択は必要である。一瞬目を伏せてから、マレは猫のような瞳を少女に向けた。
「ボクとヨルは、互いに唯一の存在ダヨ」
唯一無二の存在。
少女はその言葉に、子鹿のような瞳をパチリと瞬きさせたかと思うと「そっか」とはにかんだ。
その言葉が全てだと思ったから。大事なんて言葉じゃ到底表せない。マレとヨルは、不安定で泡沫のようなもので、お互いが唯一無二だ。
自分を助けてくれたヨルの側にいる人が、彼女を想っている人で良かった。
少女は知っていた。
マレという猫のような瞳の彼が、──ヨル以外の人間に興味がないことを。
自分の存在にも、興味がないことを。
「信じてよかったです。助けてくれる人がいるってことわかったから。だから未練はないです」
「へぇ、賢いのカナ? それともバカ?」
「人助けは、優しさだけじゃないってこともわかってます」
「ソレは、賢いかもネ」
マレの興味は、ヨルだけ。
それ以外には優しさの欠片もないからこそ、少女は達観した言葉を吐いた。
ヨルが人を助ける理由が優しさだけじゃないとしても、救われた人間が大勢いたことは間違いない。それだけで充分だ。
ヨルに自分の全てを預ける。
千尋を助けられるならそれでいいと、少女は嬉しそうに笑った。
「コレだから子どもは苦手ナンダヨ」
「聞こえてますよ」
ふっ、と笑いが零れる。
狭い世界で、互いの唯一を愛おしいと思う2人が声を潜めて笑いあった。